「へそ展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「へそ展」日記は、「へそまがり日本美術ー禅画からヘタウマまで」展、略して「へそ展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


「へそ展」グッズから

展覧会のたのしみのひとつが、ミュージアムショップや特設売店で販売されるさまざまな関連グッズ、という方も少なくないかもしれません。 展示室で気に入った作品のあれこれに、ポストカードや文具、日用品、記念品などのかたちで再会できるのもうれしい。

ときには、あっ、あのイメージがこんなグッズになってる!やってくれるわね、などとうなずいちゃったりして。

思わず買い求めて、展覧会のワクワクお持ち帰りです。もちろん、ショップをうろつく(失礼!、ながめる)だけでも楽しいですね。

▲「へそまがり日本美術」展の特設ショップ。
売場の一部です。

 

展覧会グッズは、展示でご覧いただく作品や美術家、企画のテーマに関連した品々。既製商品もあれば、展覧会限定で新たに製作したオリジナル・グッズなど、いろいろです。

デザイン、選定、仕入れ…、グッズに携わるスタッフは、あれこれ思いを凝らします。売れ行きも気になるところ。そのひとしおの熱い思いや製作秘話、こぼれ話なども聞きたいものですが、今回は、そんなスタッフの苦労はさておいて、まずはショップを(ほんとに)うろついてみました。

まずは定番のオリジナル・ポストカード。独立したディスプレイです。

収納ケースが整然と並んでいて、絵はがきを抜き出すのがためらわれるほど。でも一度取ってしまえば、次から次へと手が出ます。

眼をひいたのは、伊藤若冲の作品《福禄寿図》。ちょっと心配はしていたのですが、やはりおでこがはみ出てしまいました。でも、困ったときの相談事を伝えるのによいかもしれません(そういうときにハガキ?なのかはともかく)。

▼本来の作品全図はこちらです。グッズ製作で作品の部分を用いる場合、どこでカットするかでセンスがあらわれるでしょうか。

▼こちらも部分、人物の切り抜きです。バックは着色しました。うたた寝か? 熟睡か? 気持ちよさそうですね。

でも、ちょっと待ってください。この絵は、たしか曽我蕭白の《後醍醐天皇笠置潜逃図》。 主役はもちろん後醍醐天皇のはず。白い装束で、大木の脇にすらりと立っています(9頭身ぐらいありそう!)。

 ▲後醍醐天皇。なんともやるせない表情。

後醍醐天皇は、ひそかに鎌倉幕府を倒す計画を企みますが、事前にバレてしまい、都を抜けだして南部の笠置山に籠もります。けれども幕府軍が攻めてきて、さらに落ち行き、雨風の山中をちりぢりとなって逃げ迷うことに。三昼夜、慣れない山道に歩みは進まず、空腹で、みじめにも疲れ果てた、という場面を描いたのが蕭白の作品です。わずかな付き添いの側近たちから顔をそむける天皇のたたずまいが、なんとも苦い味です。

しかしながら、ポストカードに選ばれたのは、その天皇をさしおいて眠りこける従者のひとり(万里小路藤房・季房兄弟のどちらかですね)。

「主上におかれましては口惜しく切なきにあらねども、そうはいってもわしゃもう寝るかんね」という状態です。脇役ながら、この寝姿で、ポストカードにおいてはぐ~んと躍り出ました。

 そういえば、チラシや看板の画像にもこの人でした。やっかまれないかと気になっちゃいます。でも、いい寝顔です。

さて、徳川家光の《兎図》もポストカードに。札幌展のイメージカラーの黄色をバックに切り抜きで登場、めんこさ(*註)アップです。

*註 「めんこさ」は「めんこい」(かわいいをあらわす北海道語)の名詞形。かわいい兎の正面顔ですが、よく見るとまんまる黒眼が、つぶらというより、ちょっと不気味にも思えます。見透かされてしまいそう。

《兎図》は、一筆箋やトートバッグ、クリアファイル、缶バッジなど多くのグッズに本展では大活躍です。図録の表紙もそうでしたね。

▲《兎図》のトートバッグ。 本展企画者の金子さんが、サイズや持ち手(肩紐)の長さなど、使いやすさを実際に試して製作され、府中市美術館での人気商品にもなっています。少し小さめの手頃なサイズ。でもA4ファイルも入るすぐれもの。パリにもご愛用者がいらっしゃるそうですよ。

▲《兎図》の一筆箋も展覧会オリジナル。

表紙では、兎と切り株がど~んと大きくはみださんばかり(一部出てます)の迫力ですが、 中の箋紙は余白を大きくとり(実際の作品のバランスにも近いですね)、絵柄は淡い印刷。これは文字の書き込みがしやすそう。とはいえ、将軍様のありがたき絵を前にして、どんなことをしたためていいのやら、下手な字は書くのがためらわれます。それとも、何を書いたとしても、相手は「ははーっ、ありがたし」と受け取ってもらえるでしょうか。それなら万能箋ですがね。

この一筆箋、札幌展スタッフのSMさんにとって、かなり思い入れのあるグッズだとか。

▲《兎図》の一筆箋本紙

▼オリジナルの一筆箋は他にもあります。

(左は曽我二直庵《猿図》  右は中村芳中《十二ヶ月花卉図押絵貼屏風》より)

ところで、最近の展覧会では、関連グッズとして食品、特にスイーツなんかも人気ですね。海外展ではチョコレートやクッキーなども、定番といっていいぐらいです。今回の展覧会ではどうでしょうか。日本美術です。しかも、へそまがりです。

う~ん、さすがにチョコはないかも。それでは何が…。探してみると、こんなのがありました! スイーツじゃないけど、博多の「あごだし」です。甘くはないが、ちょこっと意表をつく選択? なるほど、やはり展覧会にちなんで、深みのあるいい味出してます、ということでしょうか。

▲江戸時代に創業の博多の老舗の商品。パッケージの絵は、本展にも多くの作品が展示されている博多ゆかりの禅僧、仙厓義梵が描いた、お店のご主人とのこと。

▼そしてこちらは、そのものずばりの「仙厓さんもなか」。皮とあんこが別々の袋に入って、食べるときにドッキングです。皮のパリパリ感がグッドです。やはり仙崖さんゆかりの博多のお店の商品です。

いや、パリパリよりもしっとり系がいいね、などという向きには、こんなお菓子も。

もなかと同じお店の洋菓子ですが、展示作品とのゆかりは現在調査中、というか思案中。思うに、本展の第4章は「苦みとおとぼけ」。苦みがあるなら、今度は酸っぱみの点から味わい楽しむこともできるでしょうか。まだ調査は足りませんが。

*最新情報 残念ながら8月6日現在品切れ中、近日入荷予定とのことでした。

さて、うろつくだけでなく、少額商品も少々買い込んでしまったのですが、しだいに売場にないグッズが心に浮かぶようにもなりました。こんなのがあったらなあ、という空想ですね。

たとえば犬好きの人には、長沢蘆雪《菊花子犬図》の抱き枕。

▲群れ集まってもふもふとじゃれる子犬たち。がばっと抱いてむぎゅーっとすれば、あなたも子犬の仲間入り。毛皮で作ればさらにふかふかですが、夏場はさすがに暑苦しいですね。

▼そして抱き枕好きならおすすめは、最初にも出てきた伊藤若冲《福禄寿図》。

すべすべです(たぶん)。ほぼ、おでこ百パーセント。というより、もはやただの長ーい枕百パーセント。あまり作品に近づきすぎても、かえって見失いそうです。

つぎのおすすめは、曽我二直庵《猿図》のコースター(あるいは缶バッジ)。いかがでしょう。

だんだん意味不明のグッズ妄想になってきました。なんだかショップ酔いしてきたようにも思います(ショップではなく、本人の責任です)。

本日はこのへんで。また展示室に戻って見ようと思います。なんといっても、実際の作品の鑑賞が第一ですからね。 前期もまもなく終了(9日まで)、後期(11日~9月1日)の展示も楽しみです。

(北海道立近代美術館、地家)

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