「へそ展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「へそ展」日記は、「へそまがり日本美術ー禅画からヘタウマまで」展、略して「へそ展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


閉幕しました

本日、「へそ展」が閉幕いたしました。

ご来館いただいたみなさまには、新型コロナウィルス感染拡大防止対策に快くご協力いただき、おかげさまで無事に閉幕を迎えることができました。

スタッフ一同、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

記録的な暑さのなか、札幌では東京2020オリンピック・パラリンピックのサッカー競技や陸上競技(マラソン/競歩)が開催され、多くの人々にとって、記憶に残るひと夏となったのではないでしょうか。

近美では、日本美術のなかでも禅画や俳画など、これまでご紹介する機会の少なかった分野の作品をたっぷりとご覧いただき、その意外な面白さや楽しさにふれ、鑑賞の喜びを感じた、というありがたいお声を頂戴いたしました。

古今の「へそまがりな感性」との出会いに、思わずクスッと笑ったり、不思議な気持になったり…、そんな「へそ展」体験を、2021年の夏の思い出に刻んでいただければ嬉しい限りです。

最後になりましたが、府中市美術館様、金子学芸員、音学芸員はじめ、本展開催にご協力下さいました全国のみなさまに、厚く御礼申し上げます。

(北海道立近代美術館、齊藤)

アンリ・ルソーと三岸好太郎

アンリ・ルソー《フリュマンス・ビッシュの肖像》1893年頃 

世田谷美術館蔵

「へそまがり日本美術」展。
そのとおり、日本美術の新たな味わい方や楽しみ方を、いささか視点を変えてながめようとするものですが、なぜかフランスの画家アンリ・ルソーの作品も登場します。
フランスは日本なのか? 仏蘭西と書けば少し日本風?
いやまあ、そこは目をつぶってご覧ください。なにせ、へそまがりですから、ゆる~く感じてくださいね。
と、いうわけではありません。

ルソーと日本の関わり。これは、かなり深いものがあり、研究も多くなされています。
あらためて振り返りましょう。
20世紀初頭、ピカソなどの前衛画家に認められたルソーの絵は、大正時代の日本にも紹介されて、美術界にかなりの影響をもたらしました。
洋画家はもちろん、日本画家さえも、多くの画家が「ルソー風」の絵を描いたのですね。
ルソーのどこが、日本の美術家にインパクトを与えたのか、彼らの目をそんなにも引きつけたのでしょうか。

ルソーは、美術の専門教育は受けないながらも、20代後半から、仕事の傍ら絵を描き続けます。
彼の絵は、伝統的な形式の立派で上手な表現に近づこうとしながらも、どこかが微妙にちがってしまう。そこの面白みに魅力があるとされてきました。
たとえば、本展出品の作品《フリュマンス・ビッシュの肖像》にしても、人物の足が地についてないようだとか、現実味や立体感に乏しいとか、遠近がどうも妙だとか、その「あまり上手く見えない」ところが注目されます。

描法の基礎を踏まえた巧みな技術による「立派な」絵画と比べれば、稚拙にも素朴にも見えるルソーの作品。
けれども、そこには、ただ拙いだけではない、単純というばかりでも、それらが醸し出す「何か」が見出され、ピカソをはじめとする最先端画家たちの心を捉えたわけです。
伝統の枠からはみ出すルソーの「ずれ」が、自然に生まれたのか、意識してのものなのか、研究がすすんでも、そこのところは、なかなかはっきりしないそう。
本展の図録でも、府中市美術館の音さんが、ルソーのことを、わざと拙く描いた「へそまがり画家」なのか、本当に下手で「素朴な画家」だったのか、考えるほど謎は深まる、と記しています。
まさしく、どこまで本気なのか!?

そんなルソーが日本に紹介された頃、美術界では児童画や江戸期の庶民の絵画への関心から、まさしく「素朴さ」や「稚拙な味」などが注目されており、それらが「ルソー風」とも重ねられて、ルソーへの愛着と共感を呼んで、一時期大流行したわけですね。

実際のモデルではなく(じつは、制作の時にはこの男性はすでに故人でした)、少し古い写真をもとに描いたといいます。

額の草模様もルソーが描きました。

その「ルソー風」の絵画が日本の美術界に広まった大正期にデビューしたのが、1921年に上京した札幌出身の三岸好太郎です。
三岸もまた、美術の専門教育は受けずに、ほぼ独学でした。油彩画の教本、友人との切磋琢磨に加えて、直感と試行錯誤を重ねながら、画家をめざしたのです。
ヨーロッパからもたらされるさまざまな美術の動向にも、敏感に貪欲に反応します。

本展会場では、このルソーと三岸の絵が並んで展示されています。

ルソーの左隣の作品は、三岸の《友人ノ肖像》。

1924年の春陽会展で、ほかの出品作《兄及ビ彼ノ長女》《春ノ野辺》《崖ノ風景》とともに、最高賞の春陽会賞を受賞した時の作品です。

当時の美術界で流行していた「ルソー風」を大いに取り入れたのがこの人物画。
「素朴さ」や「稚拙な味」もしっかり出しています。
単にルソー風というばかりではありません。ルソーに通じるところもあり、そうでない部分もみられるでしょう。

このときの展覧会評でも

「春陽会のルッソー風の中で三岸君のは中々よかった。(中略)大まかな筆づかひがルッソーとも違った味で君の個性も出ていた」(小寺健吉評)
「《春ノ野辺》其他のルッソー風は永続きするかどうかの見当はつかないが(中略)内容の点に素朴味がある」(萬鉄五郎評)
「三岸好太郎君のものはルッソー風であるが必ずしもその直訳ではない」(おなじく萬鉄五郎評)

など、ルソーを想起させることがいわれると同時に、三岸の独自性にも言及されています。

たしかに、ルソーと三岸を並べてみても、まったくそっくりというわけではありません。

実際に《友人ノ肖像》を見てみましょう。
肩幅の広い上半身に比べて、腰から足のバランスが少ししっくりしませんね。
座る腰元の奥行の描写もはっきりしない。そのせいか、ずんぐりした体型に見えます。
背広の袖や、その袖口からのぞく手が、なんだかとってつけたような感じです。

ルソーの描く丁寧さや明瞭さにくらべると、おおまかというか、いささか雑にさえ感じます。
目鼻もそうですね、ざっくりっぽい。

そこが「素朴さ」や「稚拙味」のねらいなのかもしれませんが。

右手と左手で色も違いますよ。

同様の雰囲気のもう一点は、またその隣りにある《兄及ビ彼ノ長女》。
三岸の異父兄・梅谷松太郎と、その娘・てるよの親子を描いています。
梅谷は、のちに『新撰組始末記』や『父子鷹』などの時代小説で知られる作家・子母沢寛として活躍します。この当時は新聞記者で、東京・大森に住んでいました。

記念写真の撮影に臨むかのような正面向きの姿は、いささかぎこちないポーズと固い面持ち。純朴、朴訥ともいえるでしょうか。

肩幅は広いけど、ずいぶんとなで肩。ずいぶんすぎるほど。


娘さんは当時8歳ぐらいのはずでしたが、こうして描かれるともっと幼少に見えますね。

まるでなんだか人形のよう。

ルソーの作品では、「地に足がついていないよう」といわれたりしますが、三岸の場合はどうでしょう。兄の足元。

う~ん、地につくかどうかより前に、なんだか草むらに隠れてとけこんじゃっています。
巧妙なのか、それとも少しごまかしているのか。

それにしても、親子が座る場所はどこなのでしょう? 
なぜまた戸外にソファがあるのか、しかも草の上です。

野外スタジオ? 
ふしぎな空間、素朴なたたずまい、それも魅力です。
この作品も春陽会展での首席受賞作。


このとき同会の大御所であった岸田劉生は
「不思議なる美しい画境である」
「愛情というようなものが形の上に美しく生きている」
と三岸のことを賞賛したのでした。?

三岸は、31歳で夭折する短い画業のなかで、さまざまな美術の動向や作家の影響を受けつつ、画風を変転させた画家でした。初期には岸田劉生や草土社、そしてルソー、後年の道化を描く時期にはジョルジュ・ルオー。晩年には、抽象やシュルレアリスム等の前衛的傾向の絵画があげられます。


それらを振り返るとき、ルソーからの影響は、初期のごく一時期だけだったのでしょうか。
そうみなされるのが一般的ですが、ルソーと三岸の関わりについて、さらに影響の広がりを見る論考もあります(苫名直子「三岸好太郎とアンリ・ルソー(試論)」『北海道立美術館・芸術館紀要第27号』北海道立近代美術館 2018年)。
そこでは、三岸の画業の変転は、次々と以前のものを切り離していったのではなく、新たなものを付加し重ねていく可能性に言及しています。
そうすると三岸にもルソーにもいえる「素朴さ」や「稚拙味」は、見かたによっては三岸の最晩年の作品にさえにじんでいるともいえそうです。


親しい友人の回想によると、美術界にデビューした頃(1923年頃)、仏蘭西美術を紹介する展覧会でルソー作品を見て、三岸は非常に感心していたといいます。画家への出発期の深い感銘は、生来の資質に相通じるものを感じ取ったからなのかもしれません、

アンリ・ルソーと三岸好太郎の作品が並ぶ会場をぶらぶらしながら、こんなことをふらふら思いました。

(北海道立近代美術館、地家)

「へそぶら」札幌をゆく

府中でのへそ展開催中に「へそ展日記」で、ごく一部の方にのみ熱烈にご支持をいただきました、「へそぶら」。せっかく美術館に出かけるのなら、周辺散策も楽しんでみようというご提案なのですが、へそ展北海道上陸ということで、今回は札幌でのぶらぶらをレポートいたします。

担当者はこれまで何度となく札幌を訪れているものの、実はほぼ仕事でしか訪れたことがなく、まったく土地勘がありません。
ということでここは、「路上観察」という、あまり人には言いづらい趣味を持つ者が、とくにあてもなく札幌をうろうろするとどういうことになるか、という「へそまがり」な散策を皆様に共有したいと思います。「興味ないよ」という声が聞こえてきそう……いや、確かに聞こえましたが、気にせず続けます。

札幌に降り立ったのは、へそ展開幕直前。新千歳空港からまずは会場である北海道立近代美術館に向かい、そこからぶらぶらしようと思います。

空港から快速エアポートで新札幌へ行き、東西線で美術館最寄りの西18丁目駅を目指します。一気に札幌駅まで出てしまってもよかったのですが、途中、菊水駅で下車して、ぜひ見ておきたいものがあったのです。

これです。

菊水円形歩道橋。六つ又路に架かる、「正円」の歩道橋です。
円形歩道橋というのは実はかなりレアで、全国でも数えるほどしかありません。しかも、この菊水歩道橋は、1971年に日本で最初に造られた円形歩道橋なのです。レア中のレアです。

▲googleマップで確認すると、見事に正円を描いていますね。
▲この迫力。
▲絵になりますねえ。
▲階段のループ形状もカッコいい!
▲パノラマでも。
▲タイムラプスでも。
▲影もイカす!

興奮して写真を撮りまくってしまいました。唯一残念だったのは、補修工事が行われていて、1周ぐるっと回ることが出来なかったこと。またいずれ、訪れたいと思います。

最初の寄り道から時間をかけすぎてしまいました。この日の札幌は気温30℃を超え、熱中症になりそうです。再び東西線に乗って、美術館を目指します。

▲道近美は4番出口から2ブロック
▲「トマソン」を見つけたり(トマソンについては、「超芸術トマソン」で検索してみてください)
▲「ヒライ」さんの書体やいい感じのモジャ物件が気になりながら歩いていると
▲ついに到着! 北海道立近代美術館

へそ展の看板を目にして、テンションがあがります。展示の様子も気になりますが、まずはここから散策開始です。

道近美も緑に囲まれた素敵な美術館ですが、お隣にも濃い緑の一角があります。「知事公館」です。

1936年に「三井別邸新館」として建築され、1953年から知事公館として利用されているとのこと。広大な敷地に建てられたイギリス式の木造住宅建築は国の登録有形文化財です。

知事公館を後にして、なんとなく大通公園からテレビ塔を目指すことにします。大通公園に向けて歩いていますと、これまたこんもりとした一角があらわれます。

札幌市資料館です。裏側から入ります。

資料館の建物は旧札幌控訴院(高等裁判所)。1926年の建築で、全国7箇所あった控訴院のうち、建物が現存するのはこの札幌と名古屋だけなのだそうです。
昨年12月に国の重要文化財に指定された、「ほやほやの重文」です。

重文を近づいたり離れたりしながら眺めていると、なんだかおかしなものに気がつきます。

▲?
▲?
▲!

巨大な石がぶっきらぼうに置かれています。これもパブリックアートなのかしらと、近づいてみると、なんと島袋道浩さんの「一石を投じる」という作品でした。
2014年の札幌国際芸術祭で北3条広場に展示されたものが移設されて展示されているのだとか。
昨年、ワタリウム美術館で行われた島袋さんと会田誠さんのトークイベントを聴いてからというもの、パブリックアートが気になっていた私。この札幌での島袋さんの作品との邂逅に思わず「おぅ!」というか「おふ!」というか、とにかく変な声が出てしまいました。
重文の前に鎮座する、巨大な石。なんだかかっこいいじゃないですか。

札幌市資料館は大通公園の西端に位置しますので、そのまま大通公園に入ります。

大通公園では、出てくる出てくるパブリックアートの数々。

▲「若い女の像」だそうです
▲なんの脈絡もなく狛犬? いやシーサー? みたいのがいたり
▲姉妹都市ミュンヘンから贈られたマイバウムがあったり
▲銅像もいろいろ
▲これは「漁民の像」
▲エゾフクロウの言葉にエゾシカ、ハシブトガラス、エゾウサギが耳を傾けている図、だそうです
▲これまた唐突なライオン噴水

さすがは大通り公園。見所盛りだくさんです。ただこの時期はオリンピックのためブロックされているエリアが多く、いったん離れます。

▲見事なトマソン(これは「純粋階段」ですね)を見つけたりしながらうろうろしていますと、
▲へそ展ポスター発見! 道新ビルです。この散策のときは気づかなかったのですが、時計台斜向かいには、巨大なパネルが架けられていました

へそ展からへそ展につながったところで、気温の高さもあり、体力が限界となりましたので、ホテルへ向かうことにします。散策時間は円形歩道橋起点ですと3時間ほどでしょうか。レアな建造物からパブリックアートまで、札幌の魅力に触れる楽しい散策でした。

(図録制作チーム、藤枝)

▲おまけ。ホテルに向かう途中で見つけた素敵物件。明治34年築。当時の面影のまま今も営業する薬局だそうです。

後期展の見どころ

19点の展示替えを行い、本日から「へそ展」後期が始まります。

前期に見たけど、もう一度見たい!という方。

前期は見逃したけど、後期こそ見に行きたい!という方。

どちらさまにもお楽しみいただきたく、各章から「新顔」をご紹介いたします。

禅画の世界は、型破り。

日本においては、禅と茶の結びつきは強く、どちらも「不完全であること」を重んじます。

型破りで、不完全-。

これを書と絵であらわすとこうなります、という模範事例のような作品がこちら。

東嶺円慈 《茶柄杓図》 早稲田大学會津八一記念博物館蔵

白隠慧鶴の高弟であった東嶺円慈の筆遣いは、まことに豪放磊落。

茶の柄杓が、竹筒に入っているさまを描いて、人々に説かんとしたことは一体なに…?

俳画や南画の世界は、格式ばったことを嫌います。

あえて、無骨に、素人っぽく。

しかも、そのキャラ天然なの?と思わせる、魔法のような骨抜き&脱力作品がこちら。

冨田渓仙《牡丹唐獅子図》福岡県立美術館蔵

平たい顔の獅子は、やけに親しみは感じるものの、豪華絢爛さからはほど遠く…。

同上(部分)

故郷福岡ゆかりの仙厓に傾倒した冨田渓仙の、禅画への関心がうかがわれます。

大作《沈竈・容膝》(通期で展示中/福岡県立美術館蔵)と比較しながらの鑑賞も「おつ」です。

へそまがり史上で輝くスターのひとり、伊藤若冲の作品は2点とも展示替えしています。

布袋様が弥勒の化身として現れた、と聞けば大仰ですが、何ともほほえましい作品がこちら。

伊藤若冲 《伏見人形図》

ムラのある塗り方や、ゆるやかに歪ませた描き方も、巧みな「素朴」表現(なんだか矛盾しているようですが…)。

同上(部分)

若冲という画家は、細密な動植物画はもちろん、素朴な人形図にも、徹底ぶりを見せつけます。

神様なのに、なぜか笑いをさそう、突き抜けた感性と画才で意表をつく作品がこちら。

伊藤若冲 《福禄寿図》

 超絶技巧の濃厚若冲も良いですが、水墨画のあっさり若冲は京野菜の漬物のごとく、意外にピリッとした後味を残します。

もっと刺激的な、苦~い風味を求める方にはこちら。

狩野永朝 《大黒天図》

米俵を踏まえて、打出の小槌を振り上げる、台所の神様。

同上(部分)

よく見ると、まるで木彫りの能面のように立体感のある目尻のシワ、膨らんだ小鼻、ほうれい線、そして、お歯黒に耳毛まで。

京狩野派の画家の高い技術が、大きなお顔に集結しています。

わざと滑稽な言動をするのが、おとぼけ。

まるで「素」がそうであるかのようにとぼけるには、実は、高度なテクニックやセンスが求められます。

長沢蘆雪 《なめくじ図》

なめくじなんて、と思わずに、どうぞじっくり見て下さい。

同上(部分)

暗褐色の帯が走る背中、大きな触覚の先にある目。

こんな小さな画題を、ふざけて描いたように見せていても、蘆雪の画技はダダ漏れです。

(北海道立近代美術館、齊藤)

「へそ展」グッズから

展覧会のたのしみのひとつが、ミュージアムショップや特設売店で販売されるさまざまな関連グッズ、という方も少なくないかもしれません。 展示室で気に入った作品のあれこれに、ポストカードや文具、日用品、記念品などのかたちで再会できるのもうれしい。

ときには、あっ、あのイメージがこんなグッズになってる!やってくれるわね、などとうなずいちゃったりして。

思わず買い求めて、展覧会のワクワクお持ち帰りです。もちろん、ショップをうろつく(失礼!、ながめる)だけでも楽しいですね。

▲「へそまがり日本美術」展の特設ショップ。
売場の一部です。

 

展覧会グッズは、展示でご覧いただく作品や美術家、企画のテーマに関連した品々。既製商品もあれば、展覧会限定で新たに製作したオリジナル・グッズなど、いろいろです。

デザイン、選定、仕入れ…、グッズに携わるスタッフは、あれこれ思いを凝らします。売れ行きも気になるところ。そのひとしおの熱い思いや製作秘話、こぼれ話なども聞きたいものですが、今回は、そんなスタッフの苦労はさておいて、まずはショップを(ほんとに)うろついてみました。

まずは定番のオリジナル・ポストカード。独立したディスプレイです。

収納ケースが整然と並んでいて、絵はがきを抜き出すのがためらわれるほど。でも一度取ってしまえば、次から次へと手が出ます。

眼をひいたのは、伊藤若冲の作品《福禄寿図》。ちょっと心配はしていたのですが、やはりおでこがはみ出てしまいました。でも、困ったときの相談事を伝えるのによいかもしれません(そういうときにハガキ?なのかはともかく)。

▼本来の作品全図はこちらです。グッズ製作で作品の部分を用いる場合、どこでカットするかでセンスがあらわれるでしょうか。

▼こちらも部分、人物の切り抜きです。バックは着色しました。うたた寝か? 熟睡か? 気持ちよさそうですね。

でも、ちょっと待ってください。この絵は、たしか曽我蕭白の《後醍醐天皇笠置潜逃図》。 主役はもちろん後醍醐天皇のはず。白い装束で、大木の脇にすらりと立っています(9頭身ぐらいありそう!)。

 ▲後醍醐天皇。なんともやるせない表情。

後醍醐天皇は、ひそかに鎌倉幕府を倒す計画を企みますが、事前にバレてしまい、都を抜けだして南部の笠置山に籠もります。けれども幕府軍が攻めてきて、さらに落ち行き、雨風の山中をちりぢりとなって逃げ迷うことに。三昼夜、慣れない山道に歩みは進まず、空腹で、みじめにも疲れ果てた、という場面を描いたのが蕭白の作品です。わずかな付き添いの側近たちから顔をそむける天皇のたたずまいが、なんとも苦い味です。

しかしながら、ポストカードに選ばれたのは、その天皇をさしおいて眠りこける従者のひとり(万里小路藤房・季房兄弟のどちらかですね)。

「主上におかれましては口惜しく切なきにあらねども、そうはいってもわしゃもう寝るかんね」という状態です。脇役ながら、この寝姿で、ポストカードにおいてはぐ~んと躍り出ました。

 そういえば、チラシや看板の画像にもこの人でした。やっかまれないかと気になっちゃいます。でも、いい寝顔です。

さて、徳川家光の《兎図》もポストカードに。札幌展のイメージカラーの黄色をバックに切り抜きで登場、めんこさ(*註)アップです。

*註 「めんこさ」は「めんこい」(かわいいをあらわす北海道語)の名詞形。かわいい兎の正面顔ですが、よく見るとまんまる黒眼が、つぶらというより、ちょっと不気味にも思えます。見透かされてしまいそう。

《兎図》は、一筆箋やトートバッグ、クリアファイル、缶バッジなど多くのグッズに本展では大活躍です。図録の表紙もそうでしたね。

▲《兎図》のトートバッグ。 本展企画者の金子さんが、サイズや持ち手(肩紐)の長さなど、使いやすさを実際に試して製作され、府中市美術館での人気商品にもなっています。少し小さめの手頃なサイズ。でもA4ファイルも入るすぐれもの。パリにもご愛用者がいらっしゃるそうですよ。

▲《兎図》の一筆箋も展覧会オリジナル。

表紙では、兎と切り株がど~んと大きくはみださんばかり(一部出てます)の迫力ですが、 中の箋紙は余白を大きくとり(実際の作品のバランスにも近いですね)、絵柄は淡い印刷。これは文字の書き込みがしやすそう。とはいえ、将軍様のありがたき絵を前にして、どんなことをしたためていいのやら、下手な字は書くのがためらわれます。それとも、何を書いたとしても、相手は「ははーっ、ありがたし」と受け取ってもらえるでしょうか。それなら万能箋ですがね。

この一筆箋、札幌展スタッフのSMさんにとって、かなり思い入れのあるグッズだとか。

▲《兎図》の一筆箋本紙

▼オリジナルの一筆箋は他にもあります。

(左は曽我二直庵《猿図》  右は中村芳中《十二ヶ月花卉図押絵貼屏風》より)

ところで、最近の展覧会では、関連グッズとして食品、特にスイーツなんかも人気ですね。海外展ではチョコレートやクッキーなども、定番といっていいぐらいです。今回の展覧会ではどうでしょうか。日本美術です。しかも、へそまがりです。

う~ん、さすがにチョコはないかも。それでは何が…。探してみると、こんなのがありました! スイーツじゃないけど、博多の「あごだし」です。甘くはないが、ちょこっと意表をつく選択? なるほど、やはり展覧会にちなんで、深みのあるいい味出してます、ということでしょうか。

▲江戸時代に創業の博多の老舗の商品。パッケージの絵は、本展にも多くの作品が展示されている博多ゆかりの禅僧、仙厓義梵が描いた、お店のご主人とのこと。

▼そしてこちらは、そのものずばりの「仙厓さんもなか」。皮とあんこが別々の袋に入って、食べるときにドッキングです。皮のパリパリ感がグッドです。やはり仙崖さんゆかりの博多のお店の商品です。

いや、パリパリよりもしっとり系がいいね、などという向きには、こんなお菓子も。

もなかと同じお店の洋菓子ですが、展示作品とのゆかりは現在調査中、というか思案中。思うに、本展の第4章は「苦みとおとぼけ」。苦みがあるなら、今度は酸っぱみの点から味わい楽しむこともできるでしょうか。まだ調査は足りませんが。

*最新情報 残念ながら8月6日現在品切れ中、近日入荷予定とのことでした。

さて、うろつくだけでなく、少額商品も少々買い込んでしまったのですが、しだいに売場にないグッズが心に浮かぶようにもなりました。こんなのがあったらなあ、という空想ですね。

たとえば犬好きの人には、長沢蘆雪《菊花子犬図》の抱き枕。

▲群れ集まってもふもふとじゃれる子犬たち。がばっと抱いてむぎゅーっとすれば、あなたも子犬の仲間入り。毛皮で作ればさらにふかふかですが、夏場はさすがに暑苦しいですね。

▼そして抱き枕好きならおすすめは、最初にも出てきた伊藤若冲《福禄寿図》。

すべすべです(たぶん)。ほぼ、おでこ百パーセント。というより、もはやただの長ーい枕百パーセント。あまり作品に近づきすぎても、かえって見失いそうです。

つぎのおすすめは、曽我二直庵《猿図》のコースター(あるいは缶バッジ)。いかがでしょう。

だんだん意味不明のグッズ妄想になってきました。なんだかショップ酔いしてきたようにも思います(ショップではなく、本人の責任です)。

本日はこのへんで。また展示室に戻って見ようと思います。なんといっても、実際の作品の鑑賞が第一ですからね。 前期もまもなく終了(9日まで)、後期(11日~9月1日)の展示も楽しみです。

(北海道立近代美術館、地家)

「本気」の音声ガイド

 「へそ展」では、ご自身のスマートフォンで作品解説を聴くことができる音声ガイドをご用意しています。

ナビゲーターは、「洋ちゃん」の愛称でおなじみのSTVアナウンサー木村洋二さん。

過日、STVラジオのスタジオにスタッフ一同、のこのことお邪魔し、渾身の収録現場に立ち会わせていただきました。

まず、木村さんの緩急・抑揚の効いた話力と、おへその辺りに響いてくるような声量にびっくり!!

長時間にわたる収録でしたが、最初から高めだったテンションをどんどん上昇させ、最後まで全力で、かつ、「本気」で「へそ展」作品を語ってくださる声を聴きながら、プロのアナウンサーってすごいなぁと子どものように感心してしまいました。

収録の翌日、丁寧な筆跡のお礼状を頂戴し…。

さりげないお心づかいに、あらためて、木村さんのお人柄を感じます。

聴く人をたちまち「へそ展」の作品世界に誘う、どこまでも「本気」の音声ガイド。

前・後期含む36点分、全75分のボリュームですが、一度ダウンロードしていただくと、会期中(9/1まで)、いつでもどこでも聴くことができます。

会場で作品を見ながら、また、お家で図録を見ながら「へそ展」を耳でも味わっていただければと思います。

音声ガイドのご案内はこちら

(北海道立近代美術館、齊藤)

北海道の「へそまがり」

話: 齊藤千鶴子学芸員×金子信久学芸員

ついにオープンしました。へそまがり日本美術展@札幌。本展企画者の府中市美術館の金子信久学芸員は、開幕前から札幌入りし、作品の展示に立ち合い、開幕の日には講演も行いました。というわけで、図録編集チームも東京から行って参りました! そして、開幕準備真っ最中の北海道立近代美術館の齊藤千鶴子学芸員と金子学芸員に対談を依頼し、北海道の「へそまがり日本美術展」(以降、「へそ展」と略)の見どころについて、伺いました!

──夏休みを挟んだ、この季節の展覧会、他にも色々候補があったかと思うのですが、その中からなぜ、「へそ展」の開催を決めたのでしょうか?

齊藤千鶴子(以下、齊藤) まずは、「へそまがり日本美術」という企画の「楽しさ」「面白さ」が魅力的だったからです。単純な言葉でひとくくりにはできませんが、へそ展の持つそうした要素が、私たちが今、美術に求めるものと合致した、というところが大きいと思います。

──普段、北海道立近代美術館では、どのような展覧会が開かれているのでしょうか?

齊藤 道立館は6館あります。札幌には今回、へそ展の会場となったここ北海道立近代美術館とすぐお隣の三岸好太郎美術館の2館、そして釧路、帯広、函館、旭川と各都市に1館ずつ。それぞれの館ごとにコレクションがあり、特徴も違うのですが、札幌はやはり北海道の中心地ですから、北海道全体を見渡して、各地方の規模ではできない大きな展覧会を開催する場、という位置づけにはなっています。

金子信久(以下、金子) ここは北海道の上野ですよね。

齊藤 そうなんです。ですから、これまでは日本美術というジャンルで言えば、由緒あるお寺の宝物展であったり、あるいは横山大観や東山魁夷といった近代の有名画家ひとりを取り上げた、大型の展覧会が開かれてきました。ですから、今回のように、近世の作品でもいわゆる南画や俳画といった世界を真正面から捉えて扱う展覧会は、今までなかったのです。初めての試みです。

──齊藤さんは、初めて「へそまがり日本美術」をご覧になったときに、美術に対して「へそまがり」という表現を使うことを、どう思われましたか?

齊藤 仙厓とか白隠のような画家を「へそまがり」と呼ぶことは、当初からとてもよくわかりました。一方、フランスのアンリ・ルソーや三岸好太郎などの日本の近代絵画が入っていることを初めは意外に思いましたが、金子さんの解説を読ませてもらって「確かにそうだ」と、納得させられました。三岸は北海道では、大変馴染み深い作家ですので、その三岸が「へそまがり」のラインナップに入っていることで、へそ展と北海道との強いつながりも感じました。

白隠慧鶴《楊柳観音》は北海道展のみに出品される作品。写真は部分。

金子 北海道には、三岸を愛して止まない方がいっぱいいるでしょう。

齊藤 はい、根強いファンの方がたくさんおられます。でも、三岸好太郎美術館には、北海道だけでなく、全国から三岸ファンの方が訪ねてきてくださるんですよ。

金子 三岸ファンの方たちから、三岸を「へそまがり」とは何ごとか、と言われてしまいそうです。三岸はロマンチックなイメージもありますから。

齊藤 確かに、ロマンチックなエピソードが取り上げられることも多いですが、今回、展覧会をご覧になれば、「へそまがり」な側面もまた、三岸の魅力のひとつであるということに共感してくださる方も多いと思います。特に、ルソーの作品と一緒に見ることで、それがよくわかりますよね。

金子 大正時代、ああいう「素朴み」とか「稚拙み」というのは大流行し、いろんな人がそういう絵を描いたわけですが、今回の展覧会で、一番しっくりくるのは、三岸ですよね。わざと下手に描くって、実はとても難しいことなんだと思います。例えば、ルソーの周りにいた人たちって、今ひとつでしょう。ルソーは天然で、叶わないのかなあと思っちゃう。でも、三岸の初期作品は、ルソー風でありつつ、作品としてとても面白いんです。

齊藤 そうですよね。

金子 今回は、東京のへそ展ではお借りすることの叶わなかった作品が出るのも嬉しいことです。

齊藤 三岸好太郎美術館所蔵の《兄及ビ彼ノ長女》ですね。

三岸好太郎《兄及ビ彼ノ長女》北海道立三岸好太郎美術館蔵

金子 どうしてもへそ展に出品させていただきたい作品は3点ありました。《兄及ビ彼ノ長女》と《二人人物》《友人ノ肖像》です。三岸好太郎美術館さんも非常に協力的だったんですが、出品のお願いをした時には、《兄及ビ彼ノ長女》は年間予定のカレンダーに載せてしまっているから、ということでダメで……それで、《兄及ビ彼ノ長女》を除いて、《二人人物》と《友人ノ肖像》の2点を、へそ展に出品させていただくことになったんです。

三岸好太郎《二人人物》北海道立三岸好太郎美術館蔵 

齊藤 今回のへそ展には、《二人人物》が出品されずに、逆に《兄及ビ彼ノ長女》が出ることになりました。でも、《二人人物》は、お隣の三岸好太郎美術館でご覧いただけます。しかも、今回は北海道立近代美術館の常設展にも三岸が出ていますから、この界隈、ちょっとした「三岸まつり」になっています。

北海道立三岸好太郎美術館で開催中の「貝殻旅行 三岸好太郎・節子展」は、へそ展と同時開催。《二人人物》はこちらで展示されています。

金子 実は先ほど、三岸好太郎美術館に行ってきたのですが、《二人人物》の解説パネルに「ヘタウマ」という表現が使われていて、少しほっとしました(笑)。

──三岸以外に、今回のへそ展で、特に面白いと思われた画家は誰でしょう?

齊藤 やっぱり長沢蘆雪ですね。へそ展は、蘆雪の面白さ、上手さに改めて気づかされた展覧会でした。

金子 蘆雪は本当に上手いですよね。

齊藤 いろんな表現ができる画家なんですね。この章にあっても、もっと後ろの章にあってもいい。どこにあっても蘆雪の個性がちゃんと出ているんです。かわいい子犬の絵でも、《郭子儀図》のような中国の歴史に題材をとったような絵でも、あっさり描いた作品でも、描き込んだ作品でも、どんなタイプの作品にも蘆雪らしさがすごく表れていて、そこに魅力を感じました。画家の振幅の広さを感じさせます。筆の運びを見ても、蘆雪は本当に上手いですし。

長沢蘆雪《郭子儀図》

──齊藤さんは、書がご専門ですね。

齊藤 ですから、絵画を見ていても、ついつい筆の運び、筆づかいに目が行きます。

金子 《郭子儀図》は蘆雪の字がたくさん見られる珍しい作品ですね。蘆雪は自ら絵に賛(注:絵の中に書き入れた文字)を書くことがあまりなく、蘆雪直筆の字は、落款(注:サイン)でしか見られません。

齊藤 そうですね。流麗なとてもいい字です。

長沢蘆雪《郭子儀図》より蘆雪の賛の部分。

金子 仙厓の書をどうご覧になりますか? 仙厓は能書家でしょう。

仙厓《豊干禅師・寒山拾得図屏風》(幻住庵蔵)より左隻

齊藤 蘆雪とはまた違う良さですよね。蘆雪はどちらかというと、和様ですが、仙厓は唐様(注:中国風)なんですね。豪快さ、豪放さを持っていて、真似のできない字です。豪放な字と言えば、遠藤曰人もすごいですね。非常に面白い作家だと思いました。

金子 へそ展を東京で開催したときに、仙台市博物館の方が、遠藤曰人が初めて白川の関を越えて東北を出る、とおっしゃっていました。今度は、初めて海を越えたのかもしれませんね。曰人は、本当に書もいいですね。

齊藤 書と絵のギャップがすごいですね。筆圧が全然違います。書の方が得意なのかな、絵は考えながら描いているのかな、と想像しながら楽しんで鑑賞できます。

遠藤曰人《蛙の相撲図》仙台市博物館蔵

金子 考えながら描いて、これ、という……(笑。

──こういう時、書を先に書いてから、絵を描くのでしょうか?

齊藤 普通は絵が先で、書が後ですよね。

金子 そうですねえ。後のような気がしますね。

齊藤 明らかに、書と絵で筆も違いますしね。書の方は太い筆を使って、すごい筆圧でガシガシと書いているのに、絵は細くてこのゆるゆるさ加減で……。ガクッときちゃいますよね。一方で、同じ曰人の《ぼんぼこ祭図》を見ると、こんなふうに上手にも描けるんだなと不思議な感じがします。

──《ぼんぼこ祭図》、賛も曰人が書いたのですか?

遠藤曰人《ぼんぼこ祭図》仙台市博物館

齊藤 この賛は、後世の人が曰人のことを書いたものですが、それによると、曰人は「孔子や紀貫之や王羲之とか芭蕉に会いに行く」と言って亡くなったそうです。時世の句がそれ。すごい人ですよね。大物なんだなと思いました。

金子 変わった、面白い人物だったようです。俳人でありながら長刀の達人で、対馬から釜山浦まで船橋を架けようとしたとか……。

──曰人は《「杉苗や」自画賛》もありますね。

齊藤 私は名前に「鶴」の字が入っているせいか、ツルの絵がとても気になるんです。今回、ツルの絵がいくつかあって、曰人の《「杉苗や」自画賛》もとても面白いのですが、中でも、へそまがり的には稲葉弘道の《鶴図》がナンバーワンかなと思いました。「へそまがり」というキーワードからいくと、一番ですよね。ああいう姿勢のツルの絵は、初めてではないでしょうか。

稲葉弘道《鶴図》

金子 あんなツルの絵は見たことないですよね。

齊藤 ツルだけを抜きで見ても面白いですが、この枝にいる佇まいも面白いですよね。こんなところにいるんだ、と。

金子 雪が積もっていて、梅の枝や紅梅にも雪が積もっていて、すごくいい雰囲気なんですよね。

──どのあたりに「へそまがり」の心を感じますか?

齊藤 まずはポーズです。こういうツルがいるのか、と。もしかしたら、こういうポーズを見たのかなと思うんですが。全体のバランスも、ずん胴な感じのツルで、独特ですよね。足の向きも逆じゃないか、どっち向きなのかな、と考えてよくみてみると、これは後ろ姿なんですね。とにかく、色々と考えさせられます。

金子 ポーズの面白さに目が行きますが、実は、素晴らしく美しい絵でもあるところが魅力だと思います。図録のために、床の間で撮影した時、非常に綺麗で驚かされました。

金子 「北海道のへそまがり」コーナーも、今回のへそ展の見どころですね。

齊藤 東京のへそ展には出なかった、北海道ならではの「へそまがりな作品」を出品しようということになった時、まず、頭に浮かんだのが片岡球子でした。

家光コーナの奥に展示された片岡球子《面構 浮世絵師歌川国芳と浮世絵研究家鈴木重三先生》(北海道立近代美術館蔵)。

金子 この球子は迫力があって、ものすごい作品です。へそ展の人気者のひとり、歌川国芳がテーマの絵ですね。

齊藤 戦国武将や禅僧、浮世絵師などをテーマにした球子の代表作、「面構」シリーズのひとつです。4枚に分けて書いてあるのですが、一枚ずつ、背景の色も違ったりします。水の中にいるように見えますよね。その前に国芳と浮世絵研究家の鈴木重三先生がいる、という、何ともユニークな構成です。

片岡球子《面構 浮世絵師歌川国芳と浮世絵研究家鈴木重三先生》北海道立近代美術館蔵

──どうして浮世絵研究家がここに登場するのですか?

齊藤 球子は、浮世絵に関心を持っていて、浮世絵から学んでいるんです。面構シリーズでは、この国芳のほか、北斎も描いているんですけど、球子は、浮世絵師というよりは、浮世絵そのものにも関心が高くて、自分の絵の中にも取り入れたんです。それで、浮世絵の勉強をするために、鈴木先生に直接、教えを乞うて、色々見せてもらったりしていたらしいんです。

金子 これを見た時、鈴木重三さん、何て言ったんでしょうね。

齊藤 どうでしょうね。でも、「面構」シリーズの中では、この鈴木先生のお顔はすごく整っている方だと思います。球子は普通デフォルメがすごいのですが、この鈴木先生はそこまでデフォルメせず、凛々しく描かれています。

金子 球子以外にも、蠣崎波響をはじめ、北海道ゆかりの面白い作品があって、それが展覧会の結びにあるのが、とてもいいと思いました。東京で一度へそ展をご覧になった方も楽しめますし、作品のセレクトが、ちょっとしたおさらいになっているんですよね。前の章で紹介した、寒山拾得や獅子が出てきたり、三岸に通じる、ヘタウマ的描き方の作品があったり……。とにかく、たくさんの方に、改めて見ていただきたいと思いました。

北海高等女学校で教鞭を執ったほか、北海道美術協会展日本画部の創立会員として北海道の日本画の発展に尽力した白青山(つくも・せいざん)による《寒山拾得》(部分、北海道立近代美術館蔵)
竹内健《フライルフクトール》(北海道立近代美術館蔵)もルソーを思わせる“ヘタウマ”風の作品。

齊藤 ありがとうございます。北海道は楽しいものや目新しいもの、新鮮なものを求める空気のある土地柄です。ですから、新聞広告やポスターなどをご覧になって、「〈へそまがり〉ってなんだろう?」と思って、足を運んでくださっている方が多いようです。

金子 今日も、親子連れのお客様の姿をお見かけしましたが、夏休みですから、ぜひ、子供たちにも見ていただけたらいいですね。

9月1日(水)の閉幕まであと33日! ぜひ、面白いものをご覧に、北海道立近代美術館へ足をお運びいただけたら幸いです。

(図録編集チーム、久保)

展示の周辺あれこれ

北海道初上陸の「へそ展」開幕以来、札幌では好天が続いています。気温もどんどん上昇して、道産子としては、参りました、もうごかんべんを、というレベル。でも、美術館の展示室は、作品保護のために温湿度が設定されていますので、屋外の暑さとは別世界、かなり涼しく感じられるかもしれません。ちょうど本展の第1章タイトルは「別世界への案内役 禅画」なのでした。もちろん心頭滅却しなくても、充分に空調効いてます。どうぞ涼みに、いや、ご鑑賞においでください。

その展示室をご案内しましょう。 とはいっても、作品紹介ではなく、ちょっとその周辺をめぐります。

どんな展覧会においてもいえることですが、作品の展示というのは、学芸員にとって最も力を注ぐことのひとつで(渾身といってもよい)、計画から準備、現場の作業まで、微細に気を配り、そしてやりがいのあることですね。

まずは作品の安全と保護が第一。ケース製作や照明などもそれを踏まえて行います。 今回はほとんどの作品がケース内での展示。当館のもともとの設備だけでは十分ではないので、特別に日本画(屏風・掛軸)用の展示ケースを15台製作しました。

▲LED照明(調光機能付)を組み込んだ展示ケース内部

ケース内、壁面とも全般に照度は低めとしていますが、作品によりさらに照度を抑える場合もあります。

▲右端が照度を低くした照明(50ルクス以下)。右2点は油彩画(約100ルクス)。 (ここは萬鉄五郎の作品コーナー)

さて、より良い鑑賞のために、解説パネルも作成します。作品解説、作家解説ともに府中展での原稿を使わせていただきましたが、札幌の会場の展示にあわせて、パネルの大きさや、文字の書体など、東京の制作チームにデザインを依頼し、いろいろと試行錯誤しました。 やや暗めの展示室内でも、多様な年代の方にも読みやすく、と考えました。

▲「作家解説」「キャプション(題名パネル)」「作品解説」の順に設置。文章が多いときはパネルの天地を伸ばし、大中小の3種類制作。

▲北海道展で追加された北海道関連作家のコーナー。新たに解説を加えました。熱が入って少し多めに書いたのでパネルも大きめ。ミシミシになっていますがご寛容を。

ところで、昨今のコロナ禍では、これまでになかった展示室内のサインも必要になったりします。

▲展示ケースの前の床にある白い丸印にお気づきでしょうか? 観覧の方々が互いの間隔をとれる目安となるよう、約2mおきに貼られたフットマークです。

▲白い(ややベージュ)円形のラベルです。

このフットマーク、よく見ていくと、ときどきこんなマークもあります。

▲後期の出品作品、長沢蘆雪《なめくじ図》から画像をいただきました。苦手な方はそっと距離をお取りください。

展示室のどのあたりにいるかは、なめくじさんまかせです。いつのまにかしのびよってくるかどうかはわかりません。足元ばかり見ていると、作品の鑑賞ができませんね。

展覧会を見終えて出口にくると、図書コーナーがあります。 北海道立図書館と連携したもので、同館蔵書から、展覧会に関連した図書や画集、美術雑誌などを選定展示し、閲覧できるコーナーです。もちろん企画者の金子さんの著書も選ばれています。

長くなりましたが、展示とは関係ない蛇足もあります。 当館には、東西に門があり、それぞれの門に、展覧会の表示看板を設置しています。 東の看板がこれ。

西門にはこの看板

東から入るか、西から入るかで、看板の見え方がちょいと違います。でも、だからどうした、というわけではありません。ほんとうに蛇足なのでした。

(北海道立近代美術館、地家)

開幕しました!

本日、「へそ展」が開幕しました。

夏空が広がり、朝から気温が上がった札幌ですが、開館前から並んでお待ち下さるお客様の列に、スタッフ一同、感謝の思いでいっぱいに-。

午前中、本展企画者の府中市美術館学芸員・金子信久さんをお迎えし、「へそまがり日本美術 禅画から家光まで」と題して、90分にわたる熱いご講演をいただきました。

日本の美術史上には、数百年も前から「へそまがり」な感性や精神によって生み出された作品があり、現代にいたるまで、各時代、各地域に点在していること。

その作品を、面白い、楽しいと感じ、受け容れる人々にも「へそまがり」な感性や精神があり、だからこそ「へそまがり日本美術」は連綿と生まれ、伝えられてきたこと。

また、ひとくちに「へそまがり」と言っても、いろいろなタイプがあること。

たとえば、多くの人が好むきれいなものや美しいものではない題材を選ぶ「へそまがり」。

多くの人が好む題材でも、突拍子もない造形や構図をほどこしてしまう「へそまがり」。

さらに、本当は上手いのに下手に見えるように描く、とか、周りがどんな評価をしようと自分はこう描きたいから描くのだ!という、描き方の「へそまがり」。

そんな、多種多様な「へそまがり」供給が、「もっとおかしくて、風変わりで、面白いものを見てみたい」という「へそまがり」需要と響き合ってきた歴史があるのかと思うと、感慨はひとしおです。

そして、「へそまがり日本美術」には、芸術で凝り固まった頭をほぐし、勇気を与えてくれる、といった素晴らしい効能も-。

金子さんのあたたかい言葉で語られる「へそまがり日本美術」の悩ましくも輝かしい魅力は、きっと、誰しもがもっている「へそまがり」な感性にまっすぐ届いたことと思います。

金子さん、ご来場のみなさま、本当にありがとうございました。

たくさんの方々のお力添えをいただき、夏の北海道に上陸した「へそ展」。

一人でも多くの方に楽しんでいただけますように!と、心から願っています。

(北海道立近代美術館、齊藤)

若冲の「振り幅」

へそ展には、超有名な画家から知る人ぞ知る画家まで、総勢50人を超える画家の作品が出品されます。中でも、“花形”のひとりは、伊藤若冲で、彩色のある《伏見人形図》が2点に、《鯉図》《福禄寿図》2点の水墨画、計4作品が出品されます。若冲といえば、宮内庁三の丸尚蔵館が所蔵する「動植綵絵」のような、どぎつい色彩と超絶技巧の細密描写をイメージする方も多いかもしれませんが、へそ展の若冲はちょっと違います。どうして?? ──というわけで、「へそ展の若冲」について、へそ展企画者である、府中市美術館の金子学芸員にいろいろと聞いてみました。

──へそ展の若冲は4点。ちょっと少なめですよね。

金子信久学芸員(以下、金子) そうかもしれませんね。そもそも、私が通常担当している府中市美術館の春の「江戸絵画まつり」では、毎回、どうしても「若冲」がほしいと思って出しているわけではないんです。あくまでテーマありき。けれども、若冲はやっぱり魅力的な画家で、しかもアイデアが豊富で創作の幅が広いので、いろいろなテーマに引っかかってくる、というわけです。

▲へそ展に出品される《福禄寿図》(後期展示)
▲へそ展に出品される《鯉図》(前期展示)

──今回は、「へそまがり」な若冲を選んだ、というわけですね。

金子 若冲は本当に「へそまがり」な画家だと思います。あれほどの技術を持ちながら、《伏見人形図》のようにあえて素朴な絵を描いたり、《福禄寿図》のように突拍子もない造形を描いたりするのですから。《鯉図》も面白いですよね。鯉なんて古くからたくさん描かれてきましたが、こんなにびっくりするような形の鯉の絵は、それまでには全くなかったのですから。今回は、「動植綵絵」のような細密な絵を仕上げた若冲とは異なる、ゆったりとしたユーモアあふれる若冲の一面を楽しんでいただけたらと思いました。

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▲《伏見人形図》(前期展示)。素朴な造形ですが、とても美しい作品です。

──若冲は「動植綵絵」が有名ですが、展覧会によっては、初めて見る作品もたくさんあって、とても面白い画家ですね。今回の《福禄寿図》もへそ展が展覧会初登場の作品ですが、これまでにも金子学芸員の展覧会でデビューした若冲はたくさんありますよね?

金子 そうですね、府中市美術館の「江戸絵画まつり」で一般初公開となった作品はいろいろありますが、なかでも《河豚と蛙の相撲図》は思い出深い作品です。あの絵は、「かわいい江戸絵画」展(2013年)の開幕直前に、作品借用の時に借用先で拝見したのです。その場ですぐに出品を決めました。けれども図録はすでに出来上がっているタイミングだったので、別刷りで作品解説を作って、図録に挟み込んだことを覚えています。

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▲展覧会後に発売された書籍版『かわいい江戸絵画』には、《河豚と蛙の相撲図》を収録しています。

──《河豚と蛙の相撲図》は今では京都国立博物館の人気作です。

金子 出世してくれて嬉しいかぎりです。

──あの作品には、若冲のサインがありませんね。

金子  はい。ハンコだけ押されています。若冲の水墨画はたくさんありますが、サインや年齢が書かれているものは非常に少ないのです。若冲には何人も弟子がいて、若冲の制作を手伝っていたのではと推測する人もいますし、研究者の中にはハンコしかないものはその工房での作ではないかと考える人もいます。そもそも、江戸時代のほかの人気画家の例からみれば、弟子が手伝っていた可能性が無いとはいえませんが、文献的な根拠はありません。けれども、《河豚と蛙の相撲図》が若冲の作であることを疑う研究者はいないでしょう。

──若冲の水墨画はたくさんあるわけですが、描き方は同じなのでしょうか?

金子  大まかに見ればだいたい同じですし、細かく見ればいろいろです。同じ図柄の絵をいくつも描いていますが、少しずつ描き方を変えてみたりしています。それに出来栄えの違いもあります。そりゃそうですよね。むしろ、同じ図柄の水墨画をいくつも比べてみて、若冲の試行錯誤や筆をとった時の気分の違いを想像してみるのも、楽しい見方かもしれません。

──出来栄えの違いがあって当然という意味でしょうか? テレビや漫画などではよく、鑑定士のような人が作品をパッと見て「うーん、筆の冴えがないから偽物!」というような場面が出てくるようなイメージがあります。

金子  確かに、時々「筆の冴え」がどうこうというようなことを言って、それで真贋とか弟子の作かどうかを決めたがる人もいるようですが、作品をたくさん見れば見るほど、そんな単純な判断なんてできないことに思い至ります。若冲に限らず、どんな画家でもそうですが。

──そういった点も含めて、改めて若冲の魅力はどこにあるのでしょうか?

金子 動植綵絵のような細密でがっちりしたものを描いたかと思えば、へそ展に出ている《伏見人形図》や《福禄寿図》、《鯉図》のような、おかしな絵を描いたりと、その振り幅の大きさもいいですよね。それは時に、見ているこちらが困惑するほどですが、そこが魅力になっているんです。それと、若冲といえば、篤実な仏教徒で、絵のことばかり考えた、というイメージを持つ人が多いようですが、若冲は意外に人を笑わせたり、和ませたりという、サービス精神たっぷりな画家だったと思います。私は、何よりもそこが大好きです。

▲へそ展に展示される《伏見人形図》(後期展示)。

以前どこかで、「筆の冴え」のような印象だけで作品の良し悪しを語るのを耳にして、なんだかモヤモヤした記憶があったのですが、金子学芸員の説明を聞いてスッキリしました!

若冲を山ほど見てきた金子学芸員が、「へそまがり」をキーワードに選りすぐった若冲4点、本当に面白い作品です。ぜひ、展覧会場で実物をご覧ください。(図録制作チーム、久保)

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