「へそ展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「へそ展」日記は、「へそまがり日本美術ー禅画からヘタウマまで」展、略して「へそ展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


アンリ・ルソーと三岸好太郎

アンリ・ルソー《フリュマンス・ビッシュの肖像》1893年頃 

世田谷美術館蔵

「へそまがり日本美術」展。
そのとおり、日本美術の新たな味わい方や楽しみ方を、いささか視点を変えてながめようとするものですが、なぜかフランスの画家アンリ・ルソーの作品も登場します。
フランスは日本なのか? 仏蘭西と書けば少し日本風?
いやまあ、そこは目をつぶってご覧ください。なにせ、へそまがりですから、ゆる~く感じてくださいね。
と、いうわけではありません。

ルソーと日本の関わり。これは、かなり深いものがあり、研究も多くなされています。
あらためて振り返りましょう。
20世紀初頭、ピカソなどの前衛画家に認められたルソーの絵は、大正時代の日本にも紹介されて、美術界にかなりの影響をもたらしました。
洋画家はもちろん、日本画家さえも、多くの画家が「ルソー風」の絵を描いたのですね。
ルソーのどこが、日本の美術家にインパクトを与えたのか、彼らの目をそんなにも引きつけたのでしょうか。

ルソーは、美術の専門教育は受けないながらも、20代後半から、仕事の傍ら絵を描き続けます。
彼の絵は、伝統的な形式の立派で上手な表現に近づこうとしながらも、どこかが微妙にちがってしまう。そこの面白みに魅力があるとされてきました。
たとえば、本展出品の作品《フリュマンス・ビッシュの肖像》にしても、人物の足が地についてないようだとか、現実味や立体感に乏しいとか、遠近がどうも妙だとか、その「あまり上手く見えない」ところが注目されます。

描法の基礎を踏まえた巧みな技術による「立派な」絵画と比べれば、稚拙にも素朴にも見えるルソーの作品。
けれども、そこには、ただ拙いだけではない、単純というばかりでも、それらが醸し出す「何か」が見出され、ピカソをはじめとする最先端画家たちの心を捉えたわけです。
伝統の枠からはみ出すルソーの「ずれ」が、自然に生まれたのか、意識してのものなのか、研究がすすんでも、そこのところは、なかなかはっきりしないそう。
本展の図録でも、府中市美術館の音さんが、ルソーのことを、わざと拙く描いた「へそまがり画家」なのか、本当に下手で「素朴な画家」だったのか、考えるほど謎は深まる、と記しています。
まさしく、どこまで本気なのか!?

そんなルソーが日本に紹介された頃、美術界では児童画や江戸期の庶民の絵画への関心から、まさしく「素朴さ」や「稚拙な味」などが注目されており、それらが「ルソー風」とも重ねられて、ルソーへの愛着と共感を呼んで、一時期大流行したわけですね。

実際のモデルではなく(じつは、制作の時にはこの男性はすでに故人でした)、少し古い写真をもとに描いたといいます。

額の草模様もルソーが描きました。

その「ルソー風」の絵画が日本の美術界に広まった大正期にデビューしたのが、1921年に上京した札幌出身の三岸好太郎です。
三岸もまた、美術の専門教育は受けずに、ほぼ独学でした。油彩画の教本、友人との切磋琢磨に加えて、直感と試行錯誤を重ねながら、画家をめざしたのです。
ヨーロッパからもたらされるさまざまな美術の動向にも、敏感に貪欲に反応します。

本展会場では、このルソーと三岸の絵が並んで展示されています。

ルソーの左隣の作品は、三岸の《友人ノ肖像》。

1924年の春陽会展で、ほかの出品作《兄及ビ彼ノ長女》《春ノ野辺》《崖ノ風景》とともに、最高賞の春陽会賞を受賞した時の作品です。

当時の美術界で流行していた「ルソー風」を大いに取り入れたのがこの人物画。
「素朴さ」や「稚拙な味」もしっかり出しています。
単にルソー風というばかりではありません。ルソーに通じるところもあり、そうでない部分もみられるでしょう。

このときの展覧会評でも

「春陽会のルッソー風の中で三岸君のは中々よかった。(中略)大まかな筆づかひがルッソーとも違った味で君の個性も出ていた」(小寺健吉評)
「《春ノ野辺》其他のルッソー風は永続きするかどうかの見当はつかないが(中略)内容の点に素朴味がある」(萬鉄五郎評)
「三岸好太郎君のものはルッソー風であるが必ずしもその直訳ではない」(おなじく萬鉄五郎評)

など、ルソーを想起させることがいわれると同時に、三岸の独自性にも言及されています。

たしかに、ルソーと三岸を並べてみても、まったくそっくりというわけではありません。

実際に《友人ノ肖像》を見てみましょう。
肩幅の広い上半身に比べて、腰から足のバランスが少ししっくりしませんね。
座る腰元の奥行の描写もはっきりしない。そのせいか、ずんぐりした体型に見えます。
背広の袖や、その袖口からのぞく手が、なんだかとってつけたような感じです。

ルソーの描く丁寧さや明瞭さにくらべると、おおまかというか、いささか雑にさえ感じます。
目鼻もそうですね、ざっくりっぽい。

そこが「素朴さ」や「稚拙味」のねらいなのかもしれませんが。

右手と左手で色も違いますよ。

同様の雰囲気のもう一点は、またその隣りにある《兄及ビ彼ノ長女》。
三岸の異父兄・梅谷松太郎と、その娘・てるよの親子を描いています。
梅谷は、のちに『新撰組始末記』や『父子鷹』などの時代小説で知られる作家・子母沢寛として活躍します。この当時は新聞記者で、東京・大森に住んでいました。

記念写真の撮影に臨むかのような正面向きの姿は、いささかぎこちないポーズと固い面持ち。純朴、朴訥ともいえるでしょうか。

肩幅は広いけど、ずいぶんとなで肩。ずいぶんすぎるほど。


娘さんは当時8歳ぐらいのはずでしたが、こうして描かれるともっと幼少に見えますね。

まるでなんだか人形のよう。

ルソーの作品では、「地に足がついていないよう」といわれたりしますが、三岸の場合はどうでしょう。兄の足元。

う~ん、地につくかどうかより前に、なんだか草むらに隠れてとけこんじゃっています。
巧妙なのか、それとも少しごまかしているのか。

それにしても、親子が座る場所はどこなのでしょう? 
なぜまた戸外にソファがあるのか、しかも草の上です。

野外スタジオ? 
ふしぎな空間、素朴なたたずまい、それも魅力です。
この作品も春陽会展での首席受賞作。


このとき同会の大御所であった岸田劉生は
「不思議なる美しい画境である」
「愛情というようなものが形の上に美しく生きている」
と三岸のことを賞賛したのでした。?

三岸は、31歳で夭折する短い画業のなかで、さまざまな美術の動向や作家の影響を受けつつ、画風を変転させた画家でした。初期には岸田劉生や草土社、そしてルソー、後年の道化を描く時期にはジョルジュ・ルオー。晩年には、抽象やシュルレアリスム等の前衛的傾向の絵画があげられます。


それらを振り返るとき、ルソーからの影響は、初期のごく一時期だけだったのでしょうか。
そうみなされるのが一般的ですが、ルソーと三岸の関わりについて、さらに影響の広がりを見る論考もあります(苫名直子「三岸好太郎とアンリ・ルソー(試論)」『北海道立美術館・芸術館紀要第27号』北海道立近代美術館 2018年)。
そこでは、三岸の画業の変転は、次々と以前のものを切り離していったのではなく、新たなものを付加し重ねていく可能性に言及しています。
そうすると三岸にもルソーにもいえる「素朴さ」や「稚拙味」は、見かたによっては三岸の最晩年の作品にさえにじんでいるともいえそうです。


親しい友人の回想によると、美術界にデビューした頃(1923年頃)、仏蘭西美術を紹介する展覧会でルソー作品を見て、三岸は非常に感心していたといいます。画家への出発期の深い感銘は、生来の資質に相通じるものを感じ取ったからなのかもしれません、

アンリ・ルソーと三岸好太郎の作品が並ぶ会場をぶらぶらしながら、こんなことをふらふら思いました。

(北海道立近代美術館、地家)

「へそぶら」札幌をゆく

府中でのへそ展開催中に「へそ展日記」で、ごく一部の方にのみ熱烈にご支持をいただきました、「へそぶら」。せっかく美術館に出かけるのなら、周辺散策も楽しんでみようというご提案なのですが、へそ展北海道上陸ということで、今回は札幌でのぶらぶらをレポートいたします。

担当者はこれまで何度となく札幌を訪れているものの、実はほぼ仕事でしか訪れたことがなく、まったく土地勘がありません。
ということでここは、「路上観察」という、あまり人には言いづらい趣味を持つ者が、とくにあてもなく札幌をうろうろするとどういうことになるか、という「へそまがり」な散策を皆様に共有したいと思います。「興味ないよ」という声が聞こえてきそう……いや、確かに聞こえましたが、気にせず続けます。

札幌に降り立ったのは、へそ展開幕直前。新千歳空港からまずは会場である北海道立近代美術館に向かい、そこからぶらぶらしようと思います。

空港から快速エアポートで新札幌へ行き、東西線で美術館最寄りの西18丁目駅を目指します。一気に札幌駅まで出てしまってもよかったのですが、途中、菊水駅で下車して、ぜひ見ておきたいものがあったのです。

これです。

菊水円形歩道橋。六つ又路に架かる、「正円」の歩道橋です。
円形歩道橋というのは実はかなりレアで、全国でも数えるほどしかありません。しかも、この菊水歩道橋は、1971年に日本で最初に造られた円形歩道橋なのです。レア中のレアです。

▲googleマップで確認すると、見事に正円を描いていますね。
▲この迫力。
▲絵になりますねえ。
▲階段のループ形状もカッコいい!
▲パノラマでも。
▲タイムラプスでも。
▲影もイカす!

興奮して写真を撮りまくってしまいました。唯一残念だったのは、補修工事が行われていて、1周ぐるっと回ることが出来なかったこと。またいずれ、訪れたいと思います。

最初の寄り道から時間をかけすぎてしまいました。この日の札幌は気温30℃を超え、熱中症になりそうです。再び東西線に乗って、美術館を目指します。

▲道近美は4番出口から2ブロック
▲「トマソン」を見つけたり(トマソンについては、「超芸術トマソン」で検索してみてください)
▲「ヒライ」さんの書体やいい感じのモジャ物件が気になりながら歩いていると
▲ついに到着! 北海道立近代美術館

へそ展の看板を目にして、テンションがあがります。展示の様子も気になりますが、まずはここから散策開始です。

道近美も緑に囲まれた素敵な美術館ですが、お隣にも濃い緑の一角があります。「知事公館」です。

1936年に「三井別邸新館」として建築され、1953年から知事公館として利用されているとのこと。広大な敷地に建てられたイギリス式の木造住宅建築は国の登録有形文化財です。

知事公館を後にして、なんとなく大通公園からテレビ塔を目指すことにします。大通公園に向けて歩いていますと、これまたこんもりとした一角があらわれます。

札幌市資料館です。裏側から入ります。

資料館の建物は旧札幌控訴院(高等裁判所)。1926年の建築で、全国7箇所あった控訴院のうち、建物が現存するのはこの札幌と名古屋だけなのだそうです。
昨年12月に国の重要文化財に指定された、「ほやほやの重文」です。

重文を近づいたり離れたりしながら眺めていると、なんだかおかしなものに気がつきます。

▲?
▲?
▲!

巨大な石がぶっきらぼうに置かれています。これもパブリックアートなのかしらと、近づいてみると、なんと島袋道浩さんの「一石を投じる」という作品でした。
2014年の札幌国際芸術祭で北3条広場に展示されたものが移設されて展示されているのだとか。
昨年、ワタリウム美術館で行われた島袋さんと会田誠さんのトークイベントを聴いてからというもの、パブリックアートが気になっていた私。この札幌での島袋さんの作品との邂逅に思わず「おぅ!」というか「おふ!」というか、とにかく変な声が出てしまいました。
重文の前に鎮座する、巨大な石。なんだかかっこいいじゃないですか。

札幌市資料館は大通公園の西端に位置しますので、そのまま大通公園に入ります。

大通公園では、出てくる出てくるパブリックアートの数々。

▲「若い女の像」だそうです
▲なんの脈絡もなく狛犬? いやシーサー? みたいのがいたり
▲姉妹都市ミュンヘンから贈られたマイバウムがあったり
▲銅像もいろいろ
▲これは「漁民の像」
▲エゾフクロウの言葉にエゾシカ、ハシブトガラス、エゾウサギが耳を傾けている図、だそうです
▲これまた唐突なライオン噴水

さすがは大通り公園。見所盛りだくさんです。ただこの時期はオリンピックのためブロックされているエリアが多く、いったん離れます。

▲見事なトマソン(これは「純粋階段」ですね)を見つけたりしながらうろうろしていますと、
▲へそ展ポスター発見! 道新ビルです。この散策のときは気づかなかったのですが、時計台斜向かいには、巨大なパネルが架けられていました

へそ展からへそ展につながったところで、気温の高さもあり、体力が限界となりましたので、ホテルへ向かうことにします。散策時間は円形歩道橋起点ですと3時間ほどでしょうか。レアな建造物からパブリックアートまで、札幌の魅力に触れる楽しい散策でした。

(図録制作チーム、藤枝)

▲おまけ。ホテルに向かう途中で見つけた素敵物件。明治34年築。当時の面影のまま今も営業する薬局だそうです。

後期展の見どころ

19点の展示替えを行い、本日から「へそ展」後期が始まります。

前期に見たけど、もう一度見たい!という方。

前期は見逃したけど、後期こそ見に行きたい!という方。

どちらさまにもお楽しみいただきたく、各章から「新顔」をご紹介いたします。

禅画の世界は、型破り。

日本においては、禅と茶の結びつきは強く、どちらも「不完全であること」を重んじます。

型破りで、不完全-。

これを書と絵であらわすとこうなります、という模範事例のような作品がこちら。

東嶺円慈 《茶柄杓図》 早稲田大学會津八一記念博物館蔵

白隠慧鶴の高弟であった東嶺円慈の筆遣いは、まことに豪放磊落。

茶の柄杓が、竹筒に入っているさまを描いて、人々に説かんとしたことは一体なに…?

俳画や南画の世界は、格式ばったことを嫌います。

あえて、無骨に、素人っぽく。

しかも、そのキャラ天然なの?と思わせる、魔法のような骨抜き&脱力作品がこちら。

冨田渓仙《牡丹唐獅子図》福岡県立美術館蔵

平たい顔の獅子は、やけに親しみは感じるものの、豪華絢爛さからはほど遠く…。

同上(部分)

故郷福岡ゆかりの仙厓に傾倒した冨田渓仙の、禅画への関心がうかがわれます。

大作《沈竈・容膝》(通期で展示中/福岡県立美術館蔵)と比較しながらの鑑賞も「おつ」です。

へそまがり史上で輝くスターのひとり、伊藤若冲の作品は2点とも展示替えしています。

布袋様が弥勒の化身として現れた、と聞けば大仰ですが、何ともほほえましい作品がこちら。

伊藤若冲 《伏見人形図》

ムラのある塗り方や、ゆるやかに歪ませた描き方も、巧みな「素朴」表現(なんだか矛盾しているようですが…)。

同上(部分)

若冲という画家は、細密な動植物画はもちろん、素朴な人形図にも、徹底ぶりを見せつけます。

神様なのに、なぜか笑いをさそう、突き抜けた感性と画才で意表をつく作品がこちら。

伊藤若冲 《福禄寿図》

 超絶技巧の濃厚若冲も良いですが、水墨画のあっさり若冲は京野菜の漬物のごとく、意外にピリッとした後味を残します。

もっと刺激的な、苦~い風味を求める方にはこちら。

狩野永朝 《大黒天図》

米俵を踏まえて、打出の小槌を振り上げる、台所の神様。

同上(部分)

よく見ると、まるで木彫りの能面のように立体感のある目尻のシワ、膨らんだ小鼻、ほうれい線、そして、お歯黒に耳毛まで。

京狩野派の画家の高い技術が、大きなお顔に集結しています。

わざと滑稽な言動をするのが、おとぼけ。

まるで「素」がそうであるかのようにとぼけるには、実は、高度なテクニックやセンスが求められます。

長沢蘆雪 《なめくじ図》

なめくじなんて、と思わずに、どうぞじっくり見て下さい。

同上(部分)

暗褐色の帯が走る背中、大きな触覚の先にある目。

こんな小さな画題を、ふざけて描いたように見せていても、蘆雪の画技はダダ漏れです。

(北海道立近代美術館、齊藤)

「へそ展」グッズから

展覧会のたのしみのひとつが、ミュージアムショップや特設売店で販売されるさまざまな関連グッズ、という方も少なくないかもしれません。 展示室で気に入った作品のあれこれに、ポストカードや文具、日用品、記念品などのかたちで再会できるのもうれしい。

ときには、あっ、あのイメージがこんなグッズになってる!やってくれるわね、などとうなずいちゃったりして。

思わず買い求めて、展覧会のワクワクお持ち帰りです。もちろん、ショップをうろつく(失礼!、ながめる)だけでも楽しいですね。

▲「へそまがり日本美術」展の特設ショップ。
売場の一部です。

 

展覧会グッズは、展示でご覧いただく作品や美術家、企画のテーマに関連した品々。既製商品もあれば、展覧会限定で新たに製作したオリジナル・グッズなど、いろいろです。

デザイン、選定、仕入れ…、グッズに携わるスタッフは、あれこれ思いを凝らします。売れ行きも気になるところ。そのひとしおの熱い思いや製作秘話、こぼれ話なども聞きたいものですが、今回は、そんなスタッフの苦労はさておいて、まずはショップを(ほんとに)うろついてみました。

まずは定番のオリジナル・ポストカード。独立したディスプレイです。

収納ケースが整然と並んでいて、絵はがきを抜き出すのがためらわれるほど。でも一度取ってしまえば、次から次へと手が出ます。

眼をひいたのは、伊藤若冲の作品《福禄寿図》。ちょっと心配はしていたのですが、やはりおでこがはみ出てしまいました。でも、困ったときの相談事を伝えるのによいかもしれません(そういうときにハガキ?なのかはともかく)。

▼本来の作品全図はこちらです。グッズ製作で作品の部分を用いる場合、どこでカットするかでセンスがあらわれるでしょうか。

▼こちらも部分、人物の切り抜きです。バックは着色しました。うたた寝か? 熟睡か? 気持ちよさそうですね。

でも、ちょっと待ってください。この絵は、たしか曽我蕭白の《後醍醐天皇笠置潜逃図》。 主役はもちろん後醍醐天皇のはず。白い装束で、大木の脇にすらりと立っています(9頭身ぐらいありそう!)。

 ▲後醍醐天皇。なんともやるせない表情。

後醍醐天皇は、ひそかに鎌倉幕府を倒す計画を企みますが、事前にバレてしまい、都を抜けだして南部の笠置山に籠もります。けれども幕府軍が攻めてきて、さらに落ち行き、雨風の山中をちりぢりとなって逃げ迷うことに。三昼夜、慣れない山道に歩みは進まず、空腹で、みじめにも疲れ果てた、という場面を描いたのが蕭白の作品です。わずかな付き添いの側近たちから顔をそむける天皇のたたずまいが、なんとも苦い味です。

しかしながら、ポストカードに選ばれたのは、その天皇をさしおいて眠りこける従者のひとり(万里小路藤房・季房兄弟のどちらかですね)。

「主上におかれましては口惜しく切なきにあらねども、そうはいってもわしゃもう寝るかんね」という状態です。脇役ながら、この寝姿で、ポストカードにおいてはぐ~んと躍り出ました。

 そういえば、チラシや看板の画像にもこの人でした。やっかまれないかと気になっちゃいます。でも、いい寝顔です。

さて、徳川家光の《兎図》もポストカードに。札幌展のイメージカラーの黄色をバックに切り抜きで登場、めんこさ(*註)アップです。

*註 「めんこさ」は「めんこい」(かわいいをあらわす北海道語)の名詞形。かわいい兎の正面顔ですが、よく見るとまんまる黒眼が、つぶらというより、ちょっと不気味にも思えます。見透かされてしまいそう。

《兎図》は、一筆箋やトートバッグ、クリアファイル、缶バッジなど多くのグッズに本展では大活躍です。図録の表紙もそうでしたね。

▲《兎図》のトートバッグ。 本展企画者の金子さんが、サイズや持ち手(肩紐)の長さなど、使いやすさを実際に試して製作され、府中市美術館での人気商品にもなっています。少し小さめの手頃なサイズ。でもA4ファイルも入るすぐれもの。パリにもご愛用者がいらっしゃるそうですよ。

▲《兎図》の一筆箋も展覧会オリジナル。

表紙では、兎と切り株がど~んと大きくはみださんばかり(一部出てます)の迫力ですが、 中の箋紙は余白を大きくとり(実際の作品のバランスにも近いですね)、絵柄は淡い印刷。これは文字の書き込みがしやすそう。とはいえ、将軍様のありがたき絵を前にして、どんなことをしたためていいのやら、下手な字は書くのがためらわれます。それとも、何を書いたとしても、相手は「ははーっ、ありがたし」と受け取ってもらえるでしょうか。それなら万能箋ですがね。

この一筆箋、札幌展スタッフのSMさんにとって、かなり思い入れのあるグッズだとか。

▲《兎図》の一筆箋本紙

▼オリジナルの一筆箋は他にもあります。

(左は曽我二直庵《猿図》  右は中村芳中《十二ヶ月花卉図押絵貼屏風》より)

ところで、最近の展覧会では、関連グッズとして食品、特にスイーツなんかも人気ですね。海外展ではチョコレートやクッキーなども、定番といっていいぐらいです。今回の展覧会ではどうでしょうか。日本美術です。しかも、へそまがりです。

う~ん、さすがにチョコはないかも。それでは何が…。探してみると、こんなのがありました! スイーツじゃないけど、博多の「あごだし」です。甘くはないが、ちょこっと意表をつく選択? なるほど、やはり展覧会にちなんで、深みのあるいい味出してます、ということでしょうか。

▲江戸時代に創業の博多の老舗の商品。パッケージの絵は、本展にも多くの作品が展示されている博多ゆかりの禅僧、仙厓義梵が描いた、お店のご主人とのこと。

▼そしてこちらは、そのものずばりの「仙厓さんもなか」。皮とあんこが別々の袋に入って、食べるときにドッキングです。皮のパリパリ感がグッドです。やはり仙崖さんゆかりの博多のお店の商品です。

いや、パリパリよりもしっとり系がいいね、などという向きには、こんなお菓子も。

もなかと同じお店の洋菓子ですが、展示作品とのゆかりは現在調査中、というか思案中。思うに、本展の第4章は「苦みとおとぼけ」。苦みがあるなら、今度は酸っぱみの点から味わい楽しむこともできるでしょうか。まだ調査は足りませんが。

*最新情報 残念ながら8月6日現在品切れ中、近日入荷予定とのことでした。

さて、うろつくだけでなく、少額商品も少々買い込んでしまったのですが、しだいに売場にないグッズが心に浮かぶようにもなりました。こんなのがあったらなあ、という空想ですね。

たとえば犬好きの人には、長沢蘆雪《菊花子犬図》の抱き枕。

▲群れ集まってもふもふとじゃれる子犬たち。がばっと抱いてむぎゅーっとすれば、あなたも子犬の仲間入り。毛皮で作ればさらにふかふかですが、夏場はさすがに暑苦しいですね。

▼そして抱き枕好きならおすすめは、最初にも出てきた伊藤若冲《福禄寿図》。

すべすべです(たぶん)。ほぼ、おでこ百パーセント。というより、もはやただの長ーい枕百パーセント。あまり作品に近づきすぎても、かえって見失いそうです。

つぎのおすすめは、曽我二直庵《猿図》のコースター(あるいは缶バッジ)。いかがでしょう。

だんだん意味不明のグッズ妄想になってきました。なんだかショップ酔いしてきたようにも思います(ショップではなく、本人の責任です)。

本日はこのへんで。また展示室に戻って見ようと思います。なんといっても、実際の作品の鑑賞が第一ですからね。 前期もまもなく終了(9日まで)、後期(11日~9月1日)の展示も楽しみです。

(北海道立近代美術館、地家)

「本気」の音声ガイド

 「へそ展」では、ご自身のスマートフォンで作品解説を聴くことができる音声ガイドをご用意しています。

ナビゲーターは、「洋ちゃん」の愛称でおなじみのSTVアナウンサー木村洋二さん。

過日、STVラジオのスタジオにスタッフ一同、のこのことお邪魔し、渾身の収録現場に立ち会わせていただきました。

まず、木村さんの緩急・抑揚の効いた話力と、おへその辺りに響いてくるような声量にびっくり!!

長時間にわたる収録でしたが、最初から高めだったテンションをどんどん上昇させ、最後まで全力で、かつ、「本気」で「へそ展」作品を語ってくださる声を聴きながら、プロのアナウンサーってすごいなぁと子どものように感心してしまいました。

収録の翌日、丁寧な筆跡のお礼状を頂戴し…。

さりげないお心づかいに、あらためて、木村さんのお人柄を感じます。

聴く人をたちまち「へそ展」の作品世界に誘う、どこまでも「本気」の音声ガイド。

前・後期含む36点分、全75分のボリュームですが、一度ダウンロードしていただくと、会期中(9/1まで)、いつでもどこでも聴くことができます。

会場で作品を見ながら、また、お家で図録を見ながら「へそ展」を耳でも味わっていただければと思います。

音声ガイドのご案内はこちら

(北海道立近代美術館、齊藤)

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